03-08-22

 夫が帰ってくるなり「ああどうしよう、ああどうしよう」と、これみよがしに言うのはいつものことなので、いつものように放っておいたら、今度は私の肘を掴んで「ああどうしよう、ああどうしよう」。
 さすがにうっとうしくなって(これもいつものこと)、「どうしたの?」と訊くと(これもいつものこと)、
「転勤になったんだ」
 妻として、さすがに驚きました。
「どこに?」
「それがね」
 彼は言いづらそうに言いました。
「部長の頭の中なんだ」
 夏って本当に恐ろしいと私が思うのは、こういう理由。


 03-08-24(生理初日)

 ある上品な人とお話しました。
 意外なことに上品な人は目が飛び出るほどのお金持ちではないようでした。ただ、質の良い服を着ていました。
 彼女は、常に静かな微笑を浮かべながら、私の言葉に穏やかに頷いたり返答したりしています。私は少し意地悪な気分になりました。
「あなたは『おまんこ』のことをどう呼びますか?」
「いいえ、私にそのようなものはありません」
「だってあなたにはお子さんがいらっしゃるじゃないですか」
「いいえ、あの子は木の股から生まれたのですよ」
 と、すると、この人は悪魔だったのか、と、気付いても後の祭り。
「逃げようとしても無駄ですよ」
 上品な人はにこにこと微笑みながら、私にそう告げました。


 03-08-25(給料日かつ生理ふつかめ)

 昨晩、とんとんと肩を叩かれて目を覚ましました。
「本当は悲しいんでしょう?」
 幽霊でした。
「いいえ、普通だと思います」
 私の言葉に幽霊はひどく憤慨し、
「そんなはずはありません。悲しいはずです。悲しいはずです」
 くねくねと体をよじらせるのです。
「そんなこと言われても、本当に悲しくないのです」
 困り果ててそう答えると、幽霊は「もう知らない」と泣きながら消えてしまいました。
 だって、本当は悲しいですけど、それを他人に言っても詮無いことではありませんか。
 その騒ぎの間、隣の夫は一度も目覚めることなく、すやすやと眠っておりました。


 03-08-26(ぜんそくほっさ)

 インターネットのお友達(しょせん表面だけのおつきあい)が、時々「ネットラジオをやる」とおっしゃいます。
 私はそういうとき「へえー」とか「がんばってくださいね」としか言いません。そしてそのとおり、ラジオを聴くことはけしてありません。
 だって、聞こえてくるんですもの。
「お母さん寂しいよ」
 声と声の継ぎ目だとか、ふと電波状況が悪いときだとか、ノイズのふりして、小学生くらいの男の子の声。
 ああ、学生時分に堕胎したあの子を産んでいれば、ちょうどこのくらい。そんなことを思い出してしまうので、私はネットラジオを聴きません。


 03-08-28(病院)

 地下鉄で痴漢にあいました。私は醜女なので、夫も脅迫して婚姻にこぎつけたようなものなので、異性から体を触られるのを幸せというより他表現することができません。
 まず臀部から始まったその指先が性器に達したとき、私はきっと濡れていたとさえ思うのです。
 しかしその瞬間、痴漢さまは私が醜女であることに気づき、ご自分の指を激しく後悔され、そしてその憤りをそのまま唾液と変えて、私の顔に吹き付けられたのでした。
 ああ、どうして私はその時、口を大きく開けて、それを受け止めなかったのでしょう。今でも悔やまれてなりません。





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