元々のどが弱いくせにヘビースモーカーな私は、冬はいつでも風邪と仲良し。げほげほうるさい咳の代わりに、彼との夜がそっけなくなるのもまた、お馴染みのことで。
 私を心配するやら、それでもたぎる自分自身やら、冬の彼は至極アンビバレンツでドラマチック。見ていてちょっとうらやましいくらい。

 いえ、私、そもそも、こう見えて淡白なんです。本当ですよ?

 病院が私のためにカスタマイズしてくれるお薬どもは、全部が全部のどを全力で保護してくれる代物。そのうち1つが「飲むとのどが渇くことがあります」なんて説明してあって、どうかするとそれを注射以上に嫌悪している私。だから、食後のお薬タイムもなるだけそれを忘れたふりして、どうにか「のどが渇くことがあります」から逃げよう、なんて、企んでみせる。
 でもそれは毎回失敗。なんたって小姑以上にうるさい彼が鼻膨らませて私を見張ってるからね。
 君、ほら、また薬飲むの忘れてる。
 スケールの小さい男め。絶対出世できないぞ。
 私はぶつぶつ言いながら薬を飲む。みるみる口が干からびはじめるのがわかる。不愉快。
 あーあ。どうしてわかんないかなあ。正しすぎる男なんて、ちっともセクシーじゃないってこと。それでなくても淡白な私なのですから(本当ですよ?)、ほら、もっと、ね? 欲情させてよ。このままじゃ他のお口も干からびちゃうわ。

 その晩、眠りにつこうとする彼を、私は無理やり起こしてやった。誰が素直に寝かせますか、っていうの。抱き寄せるその腕をほどくと、指から指へ、そのまま肘へ、舌をじわじわ這わせてやる。
 こら、やめなさい。くすぐったいから。
 彼は本当に迷惑そうな顔で体をよじらす。私、それに少し傷つきながら、唇で思い切り腋毛をひっぱる。
 もう、本当にこの鈍感ときたら。だって私、こんなに乾ききってるんだよ。渇きを抑えるのに何よりものお薬。それは自分だとか他の誰かの体液なのですよ。
 そう嘯いて、私は嫌がる彼をぺろぺろぺろぺろ舐め続ける。しっとりと潤い始める自分を感じながら。夜が私の体温をそのまま彼に伝導させていくのを願いながら。


色恋沙汰TOPに戻る