花鳥風月

 2人初めての共同出資はマイナスイオンを発生させる機械。25,000円也。25,000円也。月収の何分の1だ?
 いそいそと持ち帰り、受け皿に水をたっぷり流し込んで、妙に緊張しながら、スイッチを入れる。それはシャーという耳障りな音を立てて、マイナスイオン(?)をふきだし始めた。
 これで君の喘息も僕の喘息も治るかもしれないね。
 掃除を嫌悪するあまり、そもそも埃だらけの部屋で、彼は馬鹿っぽく笑った。マイナスイオンは無色透明。本当に発生しているのか。発生していたとして、本当に空気は清浄になり、適度な湿気を保ち、そして私たちは癒されるのか。でもとりあえず私も笑っておいた。これで嫌煙家の彼の横で堂々と喫煙してやれる。

 その繊細な機械ときたら1日もたつと「水交換」というランプを光らせて、それきり黙りこんでしまう。清潔が命ですから。
 私たちは水を交換することが既に面倒で、受け皿をいっぺん引っこ抜いて、また挿入する、というずるをする。機械のやつはあっさり騙されて、またシャーとうなり出す。
 その晩も喘息の発作は起きた。その次の晩も。
 点滴の跡で腕をシャブ中みたいにさせながら、私たちは爆笑しつつ機械を騙し続ける。
 清潔好きなやつなんて、ほら、馬鹿ばっかりだよ。だから僕も埃だらけのプラモデル捨てないでいるんだ。だって僕は馬鹿じゃないから。
 彼がそう言って笑う。奥歯に埋まった銀が彼の愚かさを引き立たせる。私も銀だらけの口を開けてケタケタと笑う。

 そうして25,000円をドブに捨てた私たちは、マイナスイオンと埃に包まれた部屋で愚鈍なセックスばかりし続ける。絶頂に達する代わりに喘鳴で喉をひゅうひゅうさせながら。
 ひゅうひゅうシャーひゅうひゅうシャー。明日もあれだね、点滴だね。ひゅうひゅうシャー。マイナスイオンってなんだろうね。わかんないね。私たち馬鹿だからね。とりあえずファックしとけば全てわかるよ。きっとね、きっと。ひゅうひゅうシャー。
 気持ちいいとか癒しとか未だに難しすぎるけど、体温ってあったかいなあ、と私はそれだけ考える。発作はまだおさまらないでいる。


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