個室
気づけば窓のない個室にいて、そこはとても暗く狭く、目の前にドアがひとつ。
自分の輪郭ですら判別できないその空間、ドアだけはなぜかほのかに輝いていた。
とりあえずノックしてみる。
コツ、コツ。
すると返事があった。コツ、コツ。
「入ってますか?」
「入ってます」
若い男の声だ。
「何してるんですか?」
「決まってるでしょ。脱糞です」
となると、このドアはトイレのドアなのか。困った。出口はどこにあるんだろう。
こんな陰気な場所にいつまでもいたくないので、私はもう一度ドアをノックした。
コツ、コツ。
返事。コツ、コツ。
「あのー」
「今、とりこんでるんですけど」
男の声は苛立っていた。申し訳ないなあ、と思いつつ、引き下がるわけにはいかない。
「邪魔してごめんなさい。えっと、ここってどこなんですか?」
「さあ?」
「私、ここから出たいんですけど」
「出ればいいじゃないですか」
「出入り口がわからないんです」
「じゃあ、どうやって入ったんですか?」
「さあ?」
「……えっと、俺、今マジでとりこんでるんで、ちょっと後にしてもらえます?」
「ああ、はい。ごめんなさい」
私はとりあえず引き下がることにして、床に寝転んだ。床は固くて、ひんやりとしていた。
ああ、中のお兄さん、早くうんこ終わってくれないかな。