益虫

 ここ最近すっかり不眠を飼っていて、なぜなら深い眠りに入るや否や、両脚をばモゾモゾと虫が這い回るような感触がするからで、それは起き上がってドシドシ足を踏み鳴らせば治る程度のものではあったけれど、それでもやはりよく眠れないし、いらいらするしで、すっかり困り果てている。
 今夜もまた眠った途端にゾワゾワとするもので、半分の意識のまま右手でもって、それを払いのけてみたところ、毛むくじゃらの確かな抵抗が「どひゃあ」と飛んでいき、そこでようやく完全に目が覚め恐る恐る布団をめくりあげてみると、真っ黒な蜘蛛が前足で頭を掻いていたものだから衝天した。
「いやあーどうもどうも」
 蜘蛛の言うところによると、最近まったく性交をしていない貴女様の膣が巣を作るに絶好の場所であり、それでついつい住まわせていただいている次第であり、いつかごあいさつせにゃならんと思っとったところなんですけど、アタシも色々忙しくて、ついつい伸ばし伸ばしにしてしまい、云々。
 とりあえずあまりいい気持ちがしなかったもので、立ち退いてほしい旨伝えたが、その途端に蜘蛛は「アタシャ人間の言葉わかりません」という顔をし、ものすごい勢いでパンツのゴムの隙間から膣に戻っていってしまい、当然吐き気がしたけれど、それより激しい眠気にいつの間にか眠ってしまって、朝が来た。

 起き上がるなり、自分は早急にセックスする必要がある、セックスセックスセックス、と、まるで童貞高校生のような有様となった私は、すっかり性交することを第一義に行動するように成り果て、ナンパしてきたチンピラ崩れを相手に見事それを成功させたわけだが、以来散々私を悩ませていた不眠もきっぱり治り、きっと無遠慮に寝床に押し入ってきた珍宝によって押しつぶされたのだろうあの蜘蛛は、と思うたびに小気味いいことこの上ないが、その結果宿った赤子のせいでチンピラ崩れと結婚するはめになり、今も隣の部屋で子どもをあやしながらにやけているチンピラ崩れを思うにつけ、やはり性交は定期的にしておくのがいいということを強く強く世に訴えたい気持ちでいっぱいなのである。


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