愛す

 エロ動画ではとても間に合わないほどセックスがしたくなって、熱病にかかったように出会い系サイトをクリックしまくった。数打ちゃ当たると、数え切れないほどメールを送って、送って、送って、ふいに疲れを覚えて、結局エロ動画でオナニーして寝た。
 次の朝、返事が来ているのに驚いた。
「はじめまして、メールありがとう。私は大学2回生です。2回になってサークルでも中堅どころだし、バイトでもそうだしで、退屈してます。好きなものは甘いものです」云々。
 俺は色々なものを先走らせながら返事した。
「返事ありがとう。俺も大学2回生で同じように暇してます。あと、甘いもの好きだよ。男のくせにってよく言われる」云々。メールを書く前に一発抜いておいたのは秘密だ。

 みすずちゃん(というのだ、その子は)は、テニスサークルという名の飲みサークルに所属していて、イタ飯屋でバイトしていて、パフェが好きで、普段は「SHIPSとか着ています」で、最近3つ目のピアスの穴を開けて、芸能人ではフカダキョウコに似ていて、ものすごく寂しがりやで誰かに頭を撫で撫でしてもらいたいそうで、俺はますます色々なところをたぎらせた。
 躍起になって良いところを見せようと、俺もテニスサークル入ってて(半年で行かなくなったけど)、バイトはショットバーで(とは言ってもチェーン展開している店)、パフェはもちろん好きで(わざわざ金出してまで食べようとは思わない)、普段は「BEAMSのいいよね」で(いいとは思うが持ってはいない)、ピアスは最近してないから穴塞がっちゃったよ、で(体に穴を開けるなんて恐ろしい)、芸能人では「ジャニーズ系とか言われるかな。俺はそう思わないけど」と、後ろ半分だけは真実を告げ、よく頼りがいあるって言われるよ、とか、甘えん坊の女の子好きだな、とか、そういうメールを送った。
 何度かメールをやりあって、進路の悩みだとか我侭な友達のこととか、適当に話すようになって、泣いたり笑ったり怒ったり不安になったりして、気づけば週末に一緒にパフェを食べに行くことになっていた。
「あそこいっつも並んでるから、行ったことなかったの。むっちゃ楽しみ」
 俺も色々な意味で楽しみで、慌ててコンビニに走ってゴム製品を購入した。

 待ち合わせ場所にいたのは、もう甘いもの控えたほうがいいよとアドバイスしたくなるような女の子だった。
 TシャツにくっついたSHIPSのロゴが、ありえないほど横に伸びていた。フカキョンね。妙に納得した。向こうは向こうで、こちらを見て微妙な表情になったのを、俺は見逃さなかった。
 俺たちはまるで重大な義務を果たすかのように、パフェ屋に向かい、無言で並んだ。行列はいつまでたっても短くならなかった。下ネタしりとりでもしたくなるほどに気まずい時間がだらしなく流れていく。
「アニメとか好きそう」
 唐突にみすずちゃんが呟いた。まるで独り言のように、あさっての方向を向いている。エロゲーのほうがもっと好きですよ、と、訂正する代わりに「Lサイズ」とやりかえそうとして、やっぱりやめた。デブの膣は肉厚だろうなとちらっと思ってしまったからだ。
 ようやくテーブルについたときも無言だった。ただみすずちゃんがメニューの中でも1番高いものを頼んだときは、さすがにお冷をぶっかけたくなった。今までのメールでなんとなく俺が奢る雰囲気になっていたからだ。
 有名店とやらのパフェは喉にしがみつくような甘さで、俺は一口食べたらもうゲンナリとした。みすずちゃんは、今だけは機嫌よさそうに、抹茶アイスクリームをぱくついている。エアコンが充分効いているはずの店内で、このテーブルだけが妙に暑苦しい。手をつけられていない俺のアイスが、だらだらと溶けていき、それは体液を思わせた。
 このデブは処女だろうか。俺は悩んだ。ブスのほうが身持ちがかたいという噂は本当だろうか。俺は悩んだ。財布の中のコンドームが重い。俺は悩んだ。
 このデブとやることは、もしかしたら俺の一生の汚点ともなり得ないだろうか。俺は悩んだ。

 やりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたい穴があったら何でもいいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたいやりたい股間は誰でもいっしょだやりたいやりたいやりたいやりたいやりたい。
 でも。

「ねえ?」
 パフェを食べ終わったみすずちゃんが顔を上げ、我に返った。彼女の唇のはしっこにくっついた抹茶アイスはそれなりにエロティックに見えないこともなかった。
「あんた、私とやろうと思ってるでしょ? でも私、そんな簡単な女じゃないから」
 俺の手がコップを掴み、目の前のブタに思い切りよく冷水をぶっかけているのを、俺はまるで他人事のように感じた。


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